おとなの読書感想文

恋愛小説から自己啓発まで。26歳OLの読書感想文。

男は、信念を貫いたー『海賊と呼ばれた男 上』百田尚樹

明治34年。
当時の日本では、石炭が主なエネルギー源でした。炭鉱は隆盛をきわめ、石炭は黒いダイヤモンドと呼ばれるほどに、日本の経済を支えていました。

そんな時代にただひとり、石油の将来性に目をつけた若者がいました。
国岡鐵造。
出光興産の創業者、出光佐三をモデルに描かれた人物です。

鐡造が神戸高等商業学校(現・神戸大学経済学部)を卒業したその年、彼は191頁にもおよぶ卒業論文の中で、石炭はあと51年で尽きること、そして石油の時代が到来することを断言しました。
奇しくもこの論文からちょうど51年後に三井三池論争が勃発、次第に石炭が斜陽産業となっていく日本の未来を、予見していたかのようでした。


「人生の転機」という言葉があります。
「機」という文字は、機会・機運・時機など、めぐり合わせやチャンスといった意味合いを含み、
私は「人生の転機」についてもしかり、突然降ってきた運命的な出会いや出来事が、人生を変えるきっかけとなること、というイメージを持っていました。

鐵造の人生にも、いくつもの転機がありました。
日本が戦争に突入していく激動の時代を生きた、気概ある男たちとの出会い。彼らの勇気ある行動により、自らの事業を、そして石油とともに生きたその人生を転換させていくのです。

しかし彼は、偶然にも素晴らしい出会いに恵まれて成功した、というわけではなかったのだと思います。
彼が信念を貫き行動する姿が、彼の周囲の人間を変え、動かしたのです。ある意味で、彼に訪れた人生の転機は必然的なものでした。
石油事業を行うには当然一人の力では不可能であり、汗水たらして懸命に働く社員はもちろん、銀行や保険会社、海運業者、そして石油を必要とする客先等多数の人間を巻き込んでいくことになるのですが、
政府やGHQによる厳しい石油統制の時代、多くの石油会社が体制に迎合していく中で、ただ一人信念を貫かんと闘う男に賛意を表することが、どれだけ勇気のいることだったでしょうか。
それでも国岡鐵造という男に動かされ、危険を顧みない選択をした勇気ある人々に支えられ、彼は日本、ひいては世界を驚嘆させる経営者へとなっていくのですーー。


「馘首(かくしゅ)はならん!」

敗戦直後、瓦礫の街と化した東京。
辛うじて空襲を免れた国岡商店で、店主・国岡鐵造の怒号が飛びます。
国内の企業が経営再建に向けた経費削減の流れでこぞってリストラを進める中、ひとりの店員も首にしないというのです。
これは、「黄金の奴隷たる勿れ」「社員は家族である」という、鐵造が生涯大切にした経営理念を体現した決断でした。

敗戦から2日後、鐵造は家族であるすべての社員に向け、「日本は必ず立ち上がる。世界は再び日本に驚倒するであろう」と、気迫に満ちた言葉を語り掛けますが、
その言葉が現実のものとなる日のことを、そしてそれまでの道のりがどれほど険しいものとなるのかを、このとき鐵造はまだ知る由もありません。

敗戦国の小さな石油会社が、世界を相手にどのような闘いに挑むのか。
下巻に続きます。